ファイナンスのプロが見据える、
ベンチャーが世界を変える未来
資金調達などの面から、数多くのベンチャー企業を支援してきた磯崎哲也氏は、東京都が手がけるアクセラレーション施設「ASAC」の高い専門性を持つメンターのひとりです。彼が見出した、世界を変えるほどのインパクトを持つベンチャーの共通点、それは“視座”の高さにありました。
ベンチャーに必要な個別的・専門的なアドバイスを、報酬を受けずに与える
▲ASACメンターの磯崎哲也氏(左)
ベンチャーの“資金調達のプロ”として名高い、磯崎哲也氏。磯崎氏は、事業計画や資金調達など、起業にまつわる幅広いノウハウについて書かれた「起業のファイナンス」などの著書を持ち、2017年現在は、フェムトパートナーズのゼネラルパートナーとして、ベンチャーキャピタル(VC)事業を手がけています。
フェムトパートナーズで磯崎氏が描いているビジョンは、「メガベンチャーを作ろう」というもの。メガベンチャーとは、Googleなどのように、新しい技術やビジネスモデルを生み出し大企業へと成長したベンチャー企業のことをいいます。
そうした企業を日本から輩出するために、フェムトパートナーズではVCとしてITスタートアップに投資しています。経営戦略のディスカッションや上場準備のアドバイスなど、経営に直接関与しながら支援することによって、ベンチャービジネスの成長を加速させているのです。
ファイナンスの面から、数々のベンチャーを支援してきた磯崎氏。かつては経営コンサルタントとして、支援先企業から報酬を受け取っていました。しかし現在はVCという立場上、支援するベンチャーに対して報酬を求めることはありません。
磯崎氏 「VCでは、出資者から集めた資金から報酬をいただけるので、支援を受けるベンチャー側からはいただきません。これからビジネスを形にしていく段階のベンチャーからお金をもらうのは難しいですから。さらに、支援するベンチャーに対しては、投資をしながらファイナンスのアドバイスもしています。今では、VCは一番フェアなベンチャー支援のあり方なんじゃないかな、と思っています」
このように、投資を通じてベンチャー支援に取り組む磯崎氏ですが、その背景にあったのが、日本では、ベンチャーへの出資を中心にした「生態系」が十分に整っていないという問題意識でした。
この問題は、多くのメガベンチャーを生み出しているアメリカと比較すると明らかです。
2015年のベンチャーへの投資額を国際的に比較すると、アメリカは7兆円を超えるのに対し、日本では1,300億円程度。アメリカに比べると、2%にも満たない金額です。(出典:一般財団法人ベンチャ-エンタープライズセンター「ベンチャー白書2016」)
こうした状況から、日本の起業家はファイナンスの知識や経験が不足しているケースが少なくありません。
ところが、ベンチャーにとってファイナンスは非常に重要だと磯崎氏は語ります。
磯崎氏 「資金調達って、単に資金を受け取って終わりではないんですよ。出資者は株主でもあるわけですから、会社の根本的な経営にも関与してくることにもなる。だから、資金調達の方法によっては、その後の経営がやりにくくなることもあって……将来的に致命的な結果にもなりかねないんです」
このような考えのもと、磯崎氏は、自身の知識や経験を用いてベンチャー支援を続けています。そんな彼の原点には、オンライン証券会社であるカブドットコム証券の立ち上げに、1から関わったという過去がありました。
ベンチャーを立ち上げた磯崎氏に訪れた、キラキラと輝くような日々
財務諸表や会社法など、ファイナンスに関わる知識はさまざま。磯崎氏がそうした知識を身に着けたきっかけは、社会人になってから取得した公認会計士資格でした。
国家資格のなかでも“超難関”とされる資格を取得したのは、「上司を見返したい」という思いがあったからだといいます。
磯崎氏 「入社当時(1980年代中盤)の上司が非常に厳しかったんですけど、ある日、その上司から『お前は会計をはじめとする会社の仕組みを何も知らないから、簿記3級でもいいから取れ』と言われたんです。でも、その上司は公認会計士の資格を持っていたんですよね。
『簿記3級を取ったところで、自分を見直してくれるなんてことは、まったくないはずだ』と思って会計士の資格を取ることにしました(笑)。大変でしたけど、VCの仕事にも大いに役立っていますからね、今ではその上司には非常に感謝しています」
しかし時が経過して、社会では大きな変化が起きます。
それが1997年以降続いた金融ビッグバン。証券会社がそれまでの免許制から登録制へと変わり、株式取引の際の委託手数料が自由化されるなど、新規参入が容易になったのです。
そうしたなか、「自分たちでも証券会社を作れるんじゃないか?」と思った磯崎氏は、1999年に、カブドットコム証券の設立に関わることで、はじめて事業を1から立ち上げるという経験をすることになりました。
磯崎氏 「それまで、いわゆるサラリーマンらしい生活をしていたのが一変したんです。自分たちで新たなビジネスをつくるワクワク感がすごくて。世の中がキラキラ輝いて見えましたし、逆にジェットコースターのような胃が締め付けられる思いも体験しました(笑)」
起業をリアルに体感した磯崎氏は、その後、ベンチャーの育成を手がけるネットイヤーグループ株式会社に日本の“1号社員”として参画。株式会社ミクシィの社外監査役などとして、ネットベンチャーのビジネスにも深く関わっていきました。ときには経営者と意見を戦わせながら、共にビジネスの成長を喜び合ってきたのです。
このようにベンチャーと非常に近い距離感で支援をしてきた磯崎氏ですが、これまでの経験から、世界を変える可能性を感じるベンチャーには、ある”共通点”があるといいます。
”イケてる”ベンチャーが、成功への道を踏み外さないために手を差し伸べる
▲起業家たちに資金調達についてのメンタリングを行なっている
世界を変える可能性を感じるベンチャーの共通点、それは“圧倒的に高い視座”。
目指す市場のスケールが大きく、いずれは世の中を変えるようなインパクトを持ち、企業価値が桁違いに大きく成長する企業というイメージです。磯崎氏は、このような企業を、「イケてる企業」という独自の言葉で表現しています。
磯崎氏 「社会に、より大きなインパクトを与える企業は、企業価値も100億、1000億、1兆と大きくなるはずです。
たとえば、同じアプリ制作会社でも原宿の女の子だけを狙ったニッチなアプリよりも、世界中の女性に使ってもらえるようなアプリを作るというような、高い目線を持つ企業を応援した方が、社会へのインパクトも大きいですし、ファンドのキャピタルゲインも確保できます。そうした『イケてる会社』を応援したいと思ってます」
さらに磯崎氏が見ているのが、“人材”。メガベンチャーとして大きな市場を狙うには、目指す世界を実現できるだけのアイデアをもち、投資家などの人を巻き込む力のある起業家の存在が不可欠だからです。
磯崎氏 「結局、すごいベンチャーって、すごい人材を集めている会社なんですよね。たとえば、会社を1から立ち上げて数千人規模まで成長させたことがあるようなマネジメント経験のある人をチームに入れられると、組織を成長させる上での無駄な試行錯誤を避けられます。そのため、より効率良くスピーディーに成長していけるはずです」
しかし、そうした優れた人材を抱えるイケてる企業においても、やはりファイナンスの問題は避けては通れません。前述したように、どんなにアイデアや人材に恵まれていたとしても、資金調達のミスは、致命傷となりかねないのです。
磯崎氏 「はじめて会社を作ってビジネスするベンチャーがVC等の投資家と渡り合うのは、将棋でいうと、駒の動かし方が分かったというレベルの人がプロ棋士と戦うようなものです。絶対に勝てませんよね。だからこそ専門的なアドバイザーが必要なんです」
そうした支援をするときの気持ちを、「崖から落ちそうな赤ちゃんを、そっと手助けする感覚」と表現する磯崎氏。しかし、シード期には「赤ちゃん」でも、ベンチャーは人間の成長よりはるかに早く、たった数年で、自我が目覚めた反抗期の子供にもなり、自分の世界を持つ大学生になり、社会人(上場企業)として「親元」を離れていくのです。
磯崎氏は、こうしたベンチャー支援を通じて得た経験や知識を、今後はASACを拠点として発揮しようとしています。
世界を変えるメガベンチャーを、東京の中心から支援していく
▲ASAC受講生向け「ディナー会」で行なったファイナンス講座
2017年、磯崎氏は東京都が手がけるアクセラレーション施設「ASAC」に、フェムトパートナーズのオフィスを入居させました。
ASACは、起業家のための育成プログラムやコワーキングスペースのほかにも、メンターとなる先輩起業家のオフィス機能も備えています。
先輩起業家として、ASACのプログラムを受講する起業家と関わることになった磯崎氏は、スタートアップにとって重要なテーマについて、メンターが講話をする「ディナー会」に参加。ファイナンスをテーマに受講生に話をしました。磯崎氏は、ASACによるスタートアップ支援について、このように語ります。
磯崎氏 「こんなにメンターの多いインキュベーション施設って他では見たことないです。ASACという場所に、たくさんの起業家やメンターが集まることで、起業をさまざまな人に、抽象的にではなく、具体的に見せることができます。東京は不動産のコストが高いので、東京都が支援するという意味は大きいですよね。」
磯崎氏は、圧倒的にベンチャーの数が多い東京都の中心部に所在するASACに、VCとしての拠点を置くことで、投資先のベンチャーとも密接にコミュニケーションを取ることができるといいます。経営者と顔を合わせ、戦略を話し合うことで、よりよい支援が可能となるのです。
オフィスをASACに移し、今後ますますベンチャーとの関わりを深めていく磯崎氏。それは、「メガベンチャーを作ろう」という夢に近づいたことを意味します。
磯崎氏 「とにかく、デカい夢を応援したいんです。世の中をビジネスで変えたいけれど、そのためにどうやって資金調達をしたらいいのか見当もつかないという人がいれば、喜んで力を貸しますし、一緒に夢に向かっていきたいです」
磯崎氏が見据える、東京都からイケてるベンチャーが生まれ、世界を変えていく未来。ASACがそうした未来のきっかけとなれることを、楽しみにしています。
Text by PR Table
https://www.pr-table.com/asac/stories/941