第14期受講生:株式会社find
目の前の顧客を最優先に考え、「落とし物クラウド」でARR100億円を目指す
ASACは「ASACアルムナイに学ぶ」と題したトークイベントを開始した。身近な存在であるASAC卒業生の体験談に触れることによって、成長のヒントを得てもらうのが目的。第一弾のテーマは「大企業連携と資金調達の親和性」で、14期の受講生である株式会社findの高島彬代表取締役が登壇した。
株式会社find
代表取締役CEO
高島彬
findが提供するのは「落とし物クラウドfind」。落とし物の件数は年間で8000万にも上り、社会課題となっている点を踏まえ開発したサービスである。具体的には落とし主がLINEを活用し、find内で「いつ・どこで・何を」という簡単な情報入力をするだけで、自身の落とし物が施設に届いているのかどうかの状況がわかり、受け取りまでの連絡が可能になる仕組みだ。
このサービスに注目したのが鉄道会社。問い合わせに関する電話は1日中鳴りやまず、収益も生まないため、経営コストを削減するためにも落とし物対策は喫緊の課題となるからだ。こうした市場環境を背景にfindは、設立が2021年12月という若い企業にもかかわらず、京王電鉄をはじめとした大企業との連携や資金調達が進んでいる。(トークイベントのコーディネーターは、デロイト トーマツ ベンチャーサポート・スタートアップ事業部の松浦麻子)
――スタートアップにとって、最初のユーザーを獲得するのは本当に大変なことだと思います。京王電鉄との提携のきっかけはなんですか
「オリックスを退社する時、先輩に挨拶したら『弟の勤務先は京王電鉄。何かあったら声をかけて』と言われていたので、タイミングを見計らって連絡を入れました。他の鉄道会社にもアプローチしましたが、その弟さんだけがプロダクトと同様、『findや京王電鉄をはじめ乗客、周辺住民もハッピーにしたい』というビジョンに共感してくれたのです。その結果、京王電鉄とはパートナーのような位置づけで会話を行うことができ、実証実験、導入に至りました。やはり人との出会いは重要だと痛感しています」
――今年1月に実証実験が行われ、正式導入されたのは5月。スピーディーに事が運んだという印象があります。何が決め手となったのでしょうか
「実証実験によって乗客からの感謝の言葉が駅員に届くようになりましたし、LINEで見える化されたことが大きかったですね。また、返還率が3倍になる一方で問い合わせ電話の回数が半減するなど効果が数値として表れ、継続して使っていきたいという声が強まり、導入につながった次第です」
――5月には第三者割当増資により7500万円の資金調達を実施したと発表しましたが、いつごろから資金調達の話を進めたのですか
「昨年12月ごろから話し合いを始め、1月の実証実験を踏まえ資金調達を進めようということになりました。やはり、成果につながるさまざまな数値が確認されたことによって後押しされました」
――シードラウンドで事業会社が出資するというのは、まだまだ珍しいパターンだと思いますが、交渉で難航した局面などはあったのでしょうか
「一部には出資に対し慎重な考えもあったようです。しかし、『こういったサービスが、今まで普及していなかったのは不思議なくらい』とトップの方が評価してくださったこともあり、理解してくれるようになりました。その流れを支えたのが、担当者の熱意です。『何とか事業プランを通して一緒に仕事をしたい』。そういった思いを抱きながら取り組んでくれたことは大きかった。加えて、京王電鉄を中核会社とする京王グループ内には、百貨店やホテルをはじめとしてサービスと親和性がある会社も多い。また、私鉄は横の連携が強く、他の鉄道会社を紹介してくれたりしています」
――最後は人と人ですね
「本当にそうだと思います」
――出資したのは福岡に拠点を置くVCであるドーガン・ベータと京王電鉄、山口キャピタルですが、その3社となった経緯を教えてください
「シードラウンド時は、自分たちの戦略に合った投資家を選ぶべきだと思っていました。資金調達の目的はオペレーションと開発用の資金。どうなるのか分からない事業にお金を払ってもらい、VCによるハンズオンを通じ育てていくという段階ではありません。すでに顧客が存在し、課題をかなり解決することが分かっていたので、PMF(プロダクトマーケットフィット)までの資金が欲しいという理由から算出した金額が7500万円でした」
「このためリードを握って引っ張ってもらい、何かを創っていくというよりは、目の前の顧客の満足度を一番大事にしてくださるようなVCがいいなあと思っていました。ドーガン・ベータを紹介していただいたのは、『落とし物クラウドfind』の導入が決まっていたJR九州。ドーガンは当社のビジョンをよく理解し、サービスに対しても高い評価を与えてくれて話が進んでいきました。これを契機に、京成電鉄とドーガンから山口キャピタルが紹介され、引き受けてくれました」
――最終的にドーガンからの出資を受けましたが、さまざまなVCと面談したと思います
「実は40社ぐらいのVCと会って話をしたんですよ。ですが、『落とし物なんてもうかんない』『市場が小さい』といった理由で断られ続けました。その中には、『入ってもらいたい』と思えるVCもありましたが、事業計画や営業利益などの策定が求められました。確かに大事な要素ではありますが、当時はプロダクトがない状態です。まずはプロダクトを開発して顧客に満足してもらうことが最優先課題で、そのスタートを切りたいという資金調達でしたから、そういったVCにはお断りを入れました」
――今後の目標について聞かせてください
「まずは鉄道に焦点を当てて展開していきますが、商業施設なども顧客と定めています。来年にARR(年間経常収益)4億円が見えてくると、その後、1~2年の事業計画で20億円程度のバリエーションを出せるはずです。そこで大きく調達し、警察向けプロダクトなどを開発して拡大路線を追求したい。国内だけで十分にARR100億円を目指せるビジネスモデルだと思っています」